は、おどけた海豚共が調子に乘つてはしやぎ[#「はしやぎ」に傍点]※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り、小艇の底を潛つては右に左に現れ、うつかりすると船が持上りさうに思はれたからである。時々二三尾揃つて空中に飛躍する。口の長く細く突出た・目の小さい・ふざけた顏の奴共だ。船と競爭して、到頭島の極く近く迄ついて來た。
 島へ上つて見ると、丁度、ジャボール公學絞の補習科の生徒がコプラの採取作業をやつてゐる。増産運動の一つなのだ。島内を一巡して見たが、島中、椰子と蛸樹と麺麭樹とがギツシリ密生してゐる。熟した麺麭の果が澤山地上に落ち、その腐つてゐるのへ蠅が眞黒にたかつてゐる。側を通る我々の顏にも手にも忽ちたかつてくる。とても堪らない。途で一人の老婆が麺麭の實の頭に穴を穿ち、八つ手に似た麺麭の葉を漏斗代りに其處へ突込み、上からコプラの白い汁を絞つて流し込んでゐた。斯うして石燒にすると、全體に甘味が浸みこんでゐて大變旨いのださうである。

 支廳の人の案内でマーシャルきつての大酋長カブアを訪ねた。カブア家はヤルートとアイリンラプラプとの兩地方に跨がる古い豪家で、マーシャル古譚詩の中には屡※[#
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