樂しい倶樂部、乃至演藝場である。
衣服の法外な贅澤さに引換へて、住宅となると、之は亦、ミクロネシヤの中で最も貧弱だ。第一、床《ゆか》のある家が少い。砂、或ひは珊瑚屑を少し高く積上げ、そこへ蛸樹の葉で編んだ筵を敷いて寢るのである。周圍に四本の柱を立て、蛸樹の葉と椰子の葉とで以てそれを覆へば、それで屋根と壁とは出來上つたことになる。こんな簡單な家は無い。窓も作ることは作るが、至つて低い所に付いてゐるので、丁度便所の汲取口のやうである。この樣な酷い住居にも、尚必ずミシンとアイロンとだけは備へてあるのだ。彼等の衣裳道樂に呆れるよりも、宣教師と結托したミシン會社の辣腕に呆れる方が本當なのかも知れないが、とにかく、驚くべきことである。勿論、ジャボールの町にだけは、床《ゆか》を張つた・木造の家も相當にあるが、さうした床のある家には必ず縁の下に筵を敷いて住んでゐる住民がゐるのだ。マーシャル特産の蛸葉の纖維で編んだ團扇、手提籠の類は、概ね斯うした縁の下の住民の手内職である。
同じヤルート環礁の内のA島へ小さなポンポン蒸汽で渡つた時、海豚の群に取圍まれて面白かつたが、少々危いやうな氣もした。といふの
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