二の字点、1−2−22]出て來る名前ださうである。
瀟洒たるバンガロー風の家だ。入口に、八島嘉坊と漢字で書いた表札が掛かつてゐて、ヤシマカブアと振り假名が附けてある。此の地方の風と見えて、廚房だけは別棟になつてゐるが、それが四面皆竪格子で圍んだ妙な作りである。
初め主人が不在とて、若い女が二人出て來て接待した。一見日本人との混血と分る顏立だが、二人とも内地人の標準から見ても確かに美人である。二人が姉妹だといふことも直ぐに判つた。姉の方がカブアの細君なのだといふ。
程なく主人のカブアが呼ばれて歸つて來た。色は黒いが一寸インテリ風の・三十前後の青年で、何處か絶えずおど/\してゐる樣な所が見える。日本語は此方の言葉が辛うじて理解できる程度らしく、自分からは何一つ言出さずに、たゞ此方の言ふことに一々大人しく相槌を打つだけである。これが年收五萬乃至七萬に上るといふ(椰子の密生した島を有《も》つてゐるといふだけで、コプラ採取による收入が年にその位あるのだ)大酋長とは一寸思はれなかつた。椰子水とサイダーと蛸樹の果とをよばれて、殆ど話らしい話もせずに(何しろ向ふは何一つしやべらないのだから)家を
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