易い石疊路が紆餘曲折して續く。室の跡らしいもの、井戸の形をしたものなどが、密生した羊齒類の間に見え隱れする。壘壁の崩れか、所々に※[#「「壘」の「土」に代えて「糸」」、第3水準1−90−24]々たる石塊の山が積まれてゐる。到る所に椰子の實が落ち、或るものは腐り、或るものは三尺も芽を出してゐる。道傍の水溜には鰕の泳いでゐるのが見える。
ミクロネシヤにはもう一つ、ポナペ島に之と同樣な(更に大規模な)遺址があるが、共に之を築いた人間も年代も判つてゐない。とにかく、その構築者が現住民族とは何の關係も無いものだといふことだけは通説となつてゐるやうだ。此の石壘に就いては何等まとまつた傳説が無い上に、現住民族は石造建築について何等の興味も知識も持たぬのだし、又之等巨大な岩石を何處《いづこ》よりか(此の島に斯ういふ石は無い)海上遠く持ち運ぶなどといふ技術は、彼等よりも遙かに比較を絶して高級な文明を有つ人種でなければ不可能だからである。さういふ文明をもつた先住民族が何時頃榮え、何時頃亡び去つたか。或る人類學者は渺茫たる太平洋上に點在する之等の遺址(ミクロネシヤのみならずポリネシヤにも相當に存在する。イ
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