ースター島の如きは最も有名だが)を比較研究した後、遙かなる過去の一時期に西は埃及から東は米大陸に至る迄の廣汎な地域を蔽うた共通の「古代文明の存在」を假定する。さうして、其の文明の特徴として、太陽崇拜、構築の爲の巨石使用、農耕灌漑その他を擧げる。斯うした壯大な假説は、私に、大變樂しい空想の翼を與へる。私は、太古埃及から東漸した高度の文明を身につけた・勇敢な古代人の群を想像することが出來る。彼等は、眞珠や黒耀石を追ひ求めては、果てしない太平洋の眞蒼な潮の上を、眞紅な帆でも掛けて、恐らくは葦の莖の海圖を使用しながら、或ひは、今でも我々の仰ぐオリオン星やシリウス星を頼りに、東へ東へと渡つて行つたに違ひない。さうして、愚昧な原住民の驚嘆を前に、到る處に小ピラミッドやドルメンや環状石籬を築き、瘴※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]な自然の中に己が強い意志と慾望との印を打建てたのであらう。……勿論、この假説の當否は、門外漢たる私に判る譯が無い。たゞ私は今、眼前に、炎熱と颱風と地震との幾世紀の後、尚熱帶植物の繁茂の下に埋め盡されもせずに其の謎の樣な存在を主張してゐる巨石の堆積を見、又一方、巨石の
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