え、内地の男の人はねえ、やつぱりねえ。」
なんだ。此奴、やつぱり先刻からずつと、自分の將來の再婚のことを考へてゐたのかと急に私は可笑《をか》しくなつて、大きな聲で笑ひ出した。さうして、尚も笑ひながら「やつぱり内地の男は、どうなんだい? え?」と聞いた。笑はれたのに腹を立てたのか、マリヤンは外《そ》つぽを向いて、何も返辭をしなかつた。
此の春、偶然にもH氏と私とが揃つて一時[#「一時」に傍点]内地へ出掛けることになつた時、マリヤンは※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]をつぶして最後のパラオ料理の御馳走をして呉れた。
正月以來絶えて口にしなかつた肉の味に舌鼓を打ちながら、H氏と私とが「いづれ又秋頃迄には歸つて來るよ」(本當に、二人ともその豫定だつたのだ)と言ふと、マリヤンが笑ひながら言ふのである。
「をぢさん[#「をぢさん」に傍点]はそりや半分以上島民なんだから、又戻つて來るでせうけれど、トンちやん(困つたことに彼女は私のことを斯う呼ぶのだ。H氏の呼び方を眞似たのである。初めは少し腹を立てたが、しまひには閉口して苦笑する外は無かつた)はねえ。」
「あてにならないといふのかい?
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