り、又、マリヤンが田舍住ひを厭ふので、稍※[#二の字点、1−2−22]變則的ではあるが、夫の方がマリヤンの家に來て住んでゐた。それをマリヤンが追出したのである。體格から云つても男の方が敵はなかつたのかも知れぬ。しかし、其の後、追出された男が屡※[#二の字点、1−2−22]マリヤンの家に來て、慰藉料《ツガキーレン》などを持出しては復縁を嘆願するので、一度だけ其の願を容れて、又同棲したのださうだが、嫉妬男《やきもちをとこ》の本性は依然直らず(といふよりも、實際は、マリヤンと男との頭腦の程度の相違が何よりの原因らしく)再び別れたのだといふ。さうして、それ以來、獨りでゐる譯である。家柄の關係で、(パラオでは特に之がやかましい)滅多な者を迎へることも出來ず、又、マリヤンが開化し過ぎてゐる爲に大抵の島民の男では相手にならず、結局、もうマリヤンは結婚できないのぢやないかな、と、H氏は言つてゐた。さういへば、マリヤンの友達は、どうも日本人ばかりのやうだ。夕方など、何時も内地人の商人の細君連の縁臺などに割込んで話してゐる。それも、どうやら、大抵の場合マリヤンが其の雜談の牛耳を執つてゐるらしいのである。
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