る。その都度、私がお相伴に預かるのである。ビンルンムと稱するタピオカ芋のちまき[#「ちまき」に傍点]や、ティティンムルといふ甘い菓子などを始めて覺えたのも、マリヤンのお蔭であつた。
或る時H氏と二人で道を通り掛かりに一寸マリヤンの家に寄つたことがある。うち[#「うち」に傍点]は他の凡ての島民の家と同じく、丸竹を竝べた床《ゆか》が大部分で、一部だけ板の間になつてゐる。遠慮無しに上つて行くと、其の板の間に小さなテーブルがあつて、本が載つてゐた。取上げて見ると、一册は厨川白村の「英詩選釋」で、もう一つは岩波文庫の「ロティの結婚」であつた。天井に吊るされた棚には椰子バスケットが澤山竝び、室内に張られた紐には簡單着の類が亂雜に掛けられ(島民は衣類をしまはないで、ありつたけだらしなく[#「だらしなく」に傍点]干物《ほしもの》のやうに引掛けておく)竹の床の下に※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]共の鳴聲が聞える。室の隅には、マリヤンの親類でもあらう、一人の女がしどけなく寢ころんでゐて、私共がはひつて行くと、うさん臭さうな[#「うさん臭さうな」に傍点]目を此方に向けたが、又其の儘向ふへ寢返り
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