山の秀《ほ》の鋭どき目かもコンドルの目は
ジャングルに生ふる羊齒草《しだくさ》えびかづら[#「えびかづら」に傍点]間なくし豹はたちもとほるを
短か手《で》を布留《ふる》の神杉《かんすぎ》カンガルー春きたれりと人招くがに
春の陽に汝《な》が短か手を千早ぶるカンガルーは耳を掻かんとするか
去年《こぞ》見しと同じき隅《すみ》に石亀は向ふむきたり埃《(ほこり)》を浴びて

   山椒魚

山椒魚は山椒魚らしき顏をして水につかりゐるたゞ何となく

   鶴

あさりする丹頂の前にしまらくは目守《まも》りたりけり心|清《すが》しく
水浅く端然と立つ鶴痩せて口紅《くちべに》ほどのとさか[#「とさか」に傍点]の紅《あか》や

   火喰鳥

火くひ鳥火のみか石も木も砂も泥も食はんず面《つら》構へかも

   ホロホロ鳥

ホロホロとホロホロ鳥が鳴くといふ霜降色の胸ふくらせて

   駝鳥

障碍《ハードル》も容易《やす》く越ゆべし汝が脚の逞しくして長きを見れば
何處《(どこ)》やらの骨董《(こっとう)》店《てん》の店《みせ》さきで見たることあり此奴《こやつ》の顏を
何《なに》故の長き首ぞも中ほどをギユ
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