ウと掴めばギヤアと鳴くらむ

   大蛇

うね/\とくねりからめる錦蛇|一匹《ひとつ》にかあらむ二匹《ふたつ》にかあらむ

   大青|蜥蜴《とかげ》

口あけば大青蜥蜴舌ほそく閃《せん》々として青※[#「火+稻のつくり」、第4水準2−79−88]《せいえん》奔《はし》る

   再び 山椒魚について

山椒魚は山椒魚としかなしみをもてるが如しよくよく見れば

   麒麟《(きりん)》の歌

黒と黄の縞のネクタイ鮮やけき洒落者《みやびをとこ》と見しは僻目《ひがめ》か
春の夜のシャンゼリゼェをマダム連れムッシュ・ヂラフがそゞろ歩むも
社交界の噂なるらむ麒麟氏が妻をかへりみ何かいふらしき
山高《ダービイ》も持たせまほしき男ぶり麒麟しづ/\と歩みたりけり
泥濘《ぬかるみ》を避《よ》けて道行く禮裝の紳士とやいはむ麒麟の歩み
隙もなき伊達男《ダンデイ》ぶりやワイシャツの汚れもさぞや気にかかりなむ

   ハイエナ(鬣狗)

死にし子の死亡屆を書かせける代書屋に似たりハイエナの顏は

   カンガルウ

力無きばつた[#「ばつた」に傍点]の如《ごと》も春の陽《ひ》に跳び跳びてをりカンガルー二つ

前へ 次へ
全11ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング