口は閉ぢられてゐる。
結局この生物《いきもの》をどう扱はうかと、他の博物の教師達と相談する。どうせ長くは生きないだらうが、カナリヤの箱のやうなものでも作つて、なるべく暖い所へ置いて、この儘學校で飼つて見よう。餌は、生徒等に季節外れの蠅でも探して持つて來させれば、どうにかなるだらう、といふことになる。併し、とにかく其の簡單な設備が出來る迄は、夜の寒さと、猫などに襲はれる心配のために、私が預かつてアパアトで養ふことにした。
其の夜、私は部屋の小型ストーヴに何時もより多量の石炭を入れた。此の間死んだ鸚鵡の丸籠を下して、その中に綿を敷き、そこへカメレオンを入れた。水を飮むものかどうか知らないが、兎に角、鳥の水入も中に置いてやつた。
滑稽なことに、私は少からず悦ばされ、興奮させられてゐた。寒さなどのためにやがては死なせねばなるまいとの考へだけが私を暗くした。どうせ永く持たないのなら、學校で飼はないで、自分の處へ置き度いと思つた。動物園へ寄贈すれば、とも思つたが、何かしら手離すのが惜しい。まるで私個人が貰つたものであるかのやうに、私は感じてゐるのであつた。
久しく私の中に眠つてゐたエグゾ
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