、少しづつ動き出した。眼窩はかなり大きいのだが、眼玉が外を覗く孔《あな》は極めて小さく、その小さな孔をぐる/\方々に向けて※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しながら、その奧から見慣れぬ風景を探つてゐるらしい。朴の枝から葉の方へと匍ひ出しては身體の重みで滑りさうになり、葉の縁を趾指《あしゆび》で掴んで支へようとするが、到頭落ちてしまふ。何度も鉢の土だの床だのの上に落ちた。落ちる度に、自分の失策を嘲笑《わら》はれて腹を立てた子供のやうに眞劍な顏付で起上つて、(背中に立つてゐる裝飾風なギザ/\が、もの/\しい眞面目な外觀を與へてゐる)めくらめつぽふ[#「めくらめつぽふ」に傍点]に歩き出す。
 職員達はみんな珍しがつて見にやつて來た。大抵は、何ですかと不思議さうに訊ねる。國漢の老教師は、どう勘違ひしたか、「それは何でも花柳病の藥になるやつ[#「やつ」に傍点]でせうがな。蔭干《かげぼし》にして、煎じてな」などと言ひ出した。
 誰かが何處からか蠅をつかまへて來て、片翅をもいでから掌にのせて前に出した。カメレオンの口からサツとうす朱色の肉の棒が繰出された。舌の先端に蠅がくつつくと同時に、もう
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