予の確信する所なり、しこうして、その家屋構造の如きは、予大に経験し得たる所あり、依てここに新たに計画を立て、在来の観測所に比すれば総てその規摸を拡張し、先ず室内に運動所を設け、かつ経験上得たる所により、寒中出入の便を図り、総て構造を精密にして、固く寒風と氷雪との浸入を防ぎ、浴室を設け、また採暖法を攻究し、通信の道を開き、また少なくとも三名以上の技手滞在し、山麓及び七合目に寒中これら技手を交代させ、時の避難所を設け、あるいは夏期中より引続き滞岳して身体を山頂の風土に馴《な》らし、以て病を未然に防ぎて、身体の安固《あんこ》を図り、あるいは測器の故障を防ぐの法を立つる等、その他経験し得たる所により、それぞれ防禦《ぼうぎょ》の策を講じ、以て安全の道を図らんと欲し、下山後苦心経営すること一日に非ずといえども、在来の観測所に比すれば、規摸|迥《はる》かに宏大を要するが故に、その改築費及び将来の維持費の如き、一|私《し》の資力を以てせんこと容易に非ず、則《すなわ》ち前に掲げたるが如く今回富士観象会なるものを組織して弘く天下に向て賛助を乞うに至れり、富士観象会の目的|並《ならび》にその事務の大要は載《の》せて前段の主趣|并《ならび》に規則書等に詳《つまびら》かなり。



底本:「山の旅 明治・大正篇」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成15)年9月17日第1刷発行
   2004(平成16)年2月14日第3刷発行
底本の親本:「富士案内」春陽堂
   1901(明治34)年8月
初出:「富士案内」春陽堂
   1901(明治34)年8月
入力:川山隆
校正:門田裕志
2010年2月3日作成
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