の差あり勿論夏期とてもなお同様なりといえども、寒気増進するに及びては、ますます低落の傾きあり、故に静座するもなお胸部の圧迫を覚え、思わず溜息《ためいき》を吐《つ》くことあり、いわんや労働するに於ては、呼吸ますます逼迫《ひっぱく》するを覚ゆ、しかも先きの攻め道具たりし寒気と風力とは、ますます猛烈を加うるのみにして、更にその勢《いきおい》を減ずることなし、剰《あまつ》さえ強猛なる寒気は絶えず山腹の積雪を遠慮会釈《えんりょえしゃく》なく逆《さか》しまに吹上げ来り、いわゆる吹雪なるものにして、観測所の光景はあたかも火事場に焼け残りたる土蔵の、白煙の中《うち》に包まれたるに似たり故に一|天《てん》拭《ぬぐ》うが如く快晴なるも、雪は常に降れるに異ならず、実に平壌《へいじょう》の清兵《しんへい》も宜《よろ》しくという有様にて、四面包囲を受けしなり、ために運動意の如くならず、随て消化力減少して食気更に振わざるを以て、食物総て不味《ふみ》にして口に入らず、およそ食事の如きは普通かかる場所に於ける娯楽の一とする所なるに、今は殆んどこれをしも奪い去られたれば、あます所は観測時に測器に示す所の諸般の現象を※[
前へ 次へ
全22ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野中 至 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング