や》みしに引《ひき》かえ、我に飛行の術あらば、暫《しば》しなりとも下界に下《お》りて暖かそうな日の光に浴したしなど戯《たわ》むれをいいしことありたり、実に山頂は風常に強くして、殆《ほと》んど寧日《ねいじつ》なかりしなり、然《しか》れども諸般《しょはん》の事《こと》やや整理して、幾分|安堵《あんど》の思《おも》いをなし、室内に閑居《かんきょ》するに至《いた》るや、予が意気豪ならざる故といわんか、将《は》た人情の免れざる所ならんか、今までは暇《いとま》なくて絶えて心に浮ばざりし事も、夜半観測の間合《まあい》などには暖炉に向いながら、旧里《ふるさと》に預《あず》け置きたる三歳の小児《しょうに》が事など始めて想い起せし事もありたり。
かくの如くにして、やや堵《と》に安んぜんとするを、造化はなお生意気《なまいき》なりと思いしか、将《は》たまた更《さら》に予を試《こころ》みんとてか、今回は趣向を変えて、極めて陰険なる手段を用いジリジリ静かに攻め来りたり、そは他に非《あら》ず、気圧の薄弱これなり、人の知る如く、平地の気圧は、大抵七百六十|耗《ミリ》前後なるに、山頂は四百六十耗前後にして、実に三百耗
前へ
次へ
全22ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野中 至 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング