に向いて、焉《いずく》んぞこれ千島《ちしま》の比《たぐ》いならんや、君《きみ》は如何にして越年を遂げんとするか、前途憂慮に堪えずと曰《い》われたり、十月末の光景を見て、既にこの言あり、進んで十二月に入りては、実に平地に在《あ》りて想像の及ばざるものあり、かくの如き有様なるを以て、重要の外は外出を為《な》さずこれかえって健康を害するの恐れあればなり、(外出の難《かた》かるべきは予期せる所なりしを以て、運動に供せんため自ら室内|操櫓器《そうろき》と名《なづ》くる者を携え行きたりしが室内狭くしてしばしばこれを用ゆること能わざりし)故に僅かに狭少なる※[#「片+(戸の旧字+甫)」、第3水準1−87−69]《まど》によりて下界を瞰下《みおろ》し、常に山頂の風力の強暴なるに似ず、日光の朗《ほが》らかなるを見て、時として妻《さい》などはもし空気が目に見ゆるものならば、この烈《はげ》しき風を世人《せじん》に見せたし、下界の人は山頂も均しく長閑《のどか》ならんと思うなるべし、彼《か》の三保の松原に羽衣《はごろも》を落して飛行《ひぎょう》の術を失いし天人《てんにん》は、空行く雁《かり》を見て天上を羨《うら
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