頓の緒《ちょ》に就かんとせし所に、図《はか》らずも妻《さい》登山し来《きた》りたり、それより飲料に供すべき氷雪の収拾、室内の掃除、防寒具の調製、その他|炊事《すいじ》一切《いっさい》の事を同人に一任し、予は専《もっぱ》ら観測に従事し、やや骨を休むることを得て、先《ま》ずこれまでの造化の試験を恙《つつが》なく、及第することを得たりしなり。
然るに造化は更らに鋭利なる武器を以て、短刀直入し来りたり、そは他にあらず、寒気と強風これなり、寒気は日々厳烈を加え、風力また強大になり、岩角に触れて怒号する音|轟々《ごうごう》として、一月中僅かに二、三日を除くの外《ほか》昼夜止むことなし、従《したがっ》て飲料に充《あ》つべき氷雪の収拾等の外出容易ならず、加うるに門口《かどぐち》の戸氷結して、容易《たやす》く開くこと能わず、折節十月三十日頃なりしかと覚ゆ、彼《か》の有名なる報効義会員二人にて、剛力を伴《ともな》い、郡司氏《ぐんじし》の厚意を齎《もた》らし来訪せられし時の如き、前日は風力猛烈なりしため、八合目より一旦《いったん》七合に引返したりといえり、二人は山頂の光景を見て、如何《いか》に感じけん、予
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