#「てへん+僉」、第3水準1-84-94]して、以て無上の楽《たのし》みとするの一事あるのみ、実に造化の作戦計画は、あたかも真綿を以て首を締むるが如き手段なりしなり、しかも予らは屈せずして、これに堪えつつありしに、ここにまた二個の憂うべき事併発し来りたり、他にあらず、電池の破壊と、風力計の破損のために、爾来《じらい》風力を測《はか》る能《あた》わざるに至りし事、及び妻《さい》の浮腫病《ふしゅびょう》これなり、しこうしてこの病《やまい》や、実にこれ味方敗北の主因となるに至りしこと、後に至り大《おおい》に思い当りたるなり。
 湿球寒暖計は、夙《つと》に測る能わざるに至り、大に楽みを殺《そ》がれし心地せしが、今また暖炉の傍《かたわら》に、置ける電池|凝結《ぎょうけつ》して破壊し、ために発電するに由《よし》なく、また風雨計の要部を蔽《おお》う所の硝子板《がらすいた》紛砕して、内部に氷雪|填充《てんじゅう》し全くその用を為《な》さざるに至りしかば、更に大に楽みを殺がれたり。
 初め予が種々の事情により、単身越年を為《な》さんと決するや、妻《さい》これを憂《うれ》い独《ひと》り密《ひそ》かに急行、
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