い寄らざることなれば、僅かに下剤を用いなどして、一向《ひたす》ら恢復を祈りしも、浮腫容易に減退するに至らず、然るに如何《いかん》せん、これを平地に報ずる道なく、さればとて猛烈なる吹雪の中を下らんことは、到底一、二人の力を以て為し得べきにあらず、またこれを下山せしめんことは無論当人の本意に非ざるべしなど、これを患者に語ることの、病《やまい》に障《さわ》りあらんを思い、独《ひと》り自ら憂慮に沈みたりしが、もとこれ無人《むにん》の境、あるいは斯計《かばか》りのことあらんは、予め期したることなるにと思い返し、よしよし万一|運《うん》拙《つたな》くして斃《たお》れなば飲料用の氷桶《こおりおけ》になりと死骸《しがい》を入《い》れ置《お》くべしなど、今よりこれを顧《おも》えば笑止に堪《た》えずといえども、当時はかかる事も心に期したることありき、然るに如何なる幸運にか、十一月下旬に至り、浮腫日を追うて減退し、十二月の初には、不思議にも全く常体に復し、前日の如く忠実に彼《か》れが負担の業務を執《と》り得《う》るに至りたり、ここに於て室内も、自ら陽気となり、始めて愁眉を開くことを得《え》、予が看護中の心事
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