政治にも、興味をもたなかった。私が学びたかったのは、天地の秘密であって、私の熱中したものが物の外面的な本質であったにせよ、またあるいは、自然の内在的な精神や人間の神秘的な魂であったにせよ、しかもなお、私の探究は、形而上学的なもの、すなわちその最高の意味において世界の物理的秘密に向けられたのだ。
 ところがクレルヴァルは、言うならば事物の道徳的関係に没頭した。忙しい生活の場面、英雄たちの美徳、人間の行動などが、その主題であった。この男の希望と夢は、人間の仁侠な冒険好きな恩人として、物語にその名をとどめるような者の一人となることであった。エリザベートの聖者風の魂は、私たちの平和な家のなかで神殿に捧げられた燈のように輝いた。エリザベートの同感は私たちの同感であり、エリザベートの微笑、そのやさしい声、この世のものともおもえないその眼のかわいらしいひらめき、それがいつもそこにあって、私たちを祝福し、活気づけた。エリザベートは、人の心を和らげて惹きつける生きた愛の精神であった。この少女がそばに居て、私を自分と同じようにおとなしくしてくれなかったとすれば、勉強しているうちに機嫌を悪くし、もちまえの熱
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