情から気が荒くなったかもしれない。またクレルヴァルは、どんな病気もこの男のけだかい精神を侵すことができないだろうと思えるほどだが、そのクレルヴァルだって、エリザベートが善行のほんとうのよさを語り、高揚する望みの目的が善いことをすることにあることを、納得させなかったとしたら、あれほど申し分なく人間的であり、あれほど寛大に思慮をめぐらすということは、なかったかもしれない。冒険的功業のために熱情に燃えているさなかで、あれほど親切に心やさしくふるまいはしなかったかもしれないのだ。
子どものころの回想にひたっていると、なんとも言えない喜びが感じられるが、それ以後のことになると、不しあわせが私の心を汚辱し、広く人類のためにやくだつという輝かしい幻想も、そのために陰気な狭い自己反省に変ってしまう。さらに、私の幼いころのことを書くとすれば、思わず知らず、私の後日の不幸な身の上ばなしをすることになってしまう出来事まで、書き記すことになってくる。なぜなら、後に私の運命を支配したあの情熱の発生を、自分に納得のいくように考えてみると、それが、山川のように、ほとんど人の目にもつかぬささやかな源から出ていること
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