養育を託された。そのころはこの人たちも、もっと良いくらしをしていたのだ。この人たちは結婚してからまだ日が浅く、いちばん上の子が生れたばかりのところだった。預けられた子の父親は、イタリアの古代の栄光の記憶のなかで育てられたイタリア人――祖国の自由を獲得するために尽力した愛国の士の一人であった。この父親は、国が弱かったばかりにその犠牲になった。死んでしまったのか、それともまだオウストリアの牢獄にむなしく生きながらえているのかは、わからなかった。財産は没収され、子どもは天涯の孤児となつた。その子がずっと今まで養父母のもとにいたわけで、葉の黒ずんだ茨《いばら》のあいだにある花園の薔薇よりも美しく、このあばら屋のなかに花咲いているのだった。父が、ミラノから帰って来たとき、絵にかいた小天使よりも美しい子が、私たちの住んでいる別荘の広間で私と遊んでいるのを眼にした。それは、顔から光を発しているかとおもわれるような子で、その容姿や動作が山の羚羊《カモシカ》よりも軽やかだった。その子の現われたわけを、父はすぐ聞かされた。父の許しを得て母は、保護者である百姓夫妻を説き伏せて、その子を自分のところに引き取っ
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