その最悪の貧窮ぶりがすぐわかった。ある日、父がミラノへ行ったとき、母は私をつれてこの家を訪れた。ひどく働いて心労とほねおりのために腰の曲った百姓夫妻が、ちょうど、腹をすかした五人の子どもたちに、乏しい食べものを配っているところだった。そのなかには、ほかの誰よりもよけいに母を惹きつける女の子が居た。その子は血統が違うように見えた。ほかの四人は眼の黒い丈夫なわんぱくどもであったが、この子だけは痩せぎすで、たいへん美しかった。髪の毛は輝くばかりのいきいきとした金色で、着物の貧窮さにもかかわらず、その頭に高貴な冠を戴いているようにおもわれた。眉毛ははっきりしていて豊かだし、青い眼には曇りがなく、唇や顔つきには敏感さや愛嬌のよさが現われていて、誰が見ても、種の違った子、天の申し子、あらゆる特色の点で天上の印を捺《お》された者としか見えなかった。
百姓の妻は、母がこの愛らしい女の子を驚異と歎賞の眼でじっと見ているのに気がついて、熱心にこの子の話をして聞かせた。この子は百姓の娘ではなくて、ミラノのある貴族の娘であった。母はドイツ人で、この子を産むとすぐ亡くなってしまった。赤ん坊はこの善良な人たちに
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