と、僕は思いました。けれども僕は、北極に向って探検の旅の途上にあるのだと答えました。
 その人はもそれを聞いてやっと納得したらしく、甲板に上ってくることに同意しました。呆れましたね、マーガレット。自分が救われるのに条件をつけた男が現われるとしたら、あなただってさぞびっくりなさるでしょうよ。その人の手足は凍りかけて、体は疲労と苦痛のため恐ろしく衰弱していました。あんなにひどい状態にある人を見たことがありません。僕らはその人を船室に運びこもうとしましたが、新鮮な空気に当らなくなると、たちまち気を失ってしまいました。そこで甲板に運び戻して、ブランディで摩擦し、むりやりすこし飲ませて、息を吹き返させました。まだ生きているしるしが見えるとすぐ、毛布にくるんで厨房ストーブの煙突のそばに寝かせました。そのうちだんだんとその人は正気づき、スープをすこし飲んで、驚くほど元気を恢復しました。
 こんなふうにして二日経ちましたが、そのあいだずっと、その人は口が利けなかったので、僕は何度も、苦痛のために理解力がなくなったのではないかと心配しました。かなり恢復してから、僕は、その人を自分の船室に移して、仕事にさ
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