しつかえのないかぎり介抱してやりました。僕は、これほど興味のある人間を見たことがありません。眼はたいてい荒々しい、というよりは狂ったような表情を浮べていますが、誰かが親切なことをしてやったり、何かごく些細な用をたしてやったりすると、顔全体か、いわば、たとえようもない慈悲深さと柔和さに輝いて、ぱっと明るくなるのです。しかし、たいていは憂欝と絶望にとざされ、のしかかる苦悩の重みに堪えかねるかのように、ときどき歯ぎしりするのです。
この客人がやや恢復すると、いくらでも質問をしたがる連中を寄せつけないために、たいへんほねかおれました。どうしても絶対安静にしなけれは恢復しない状態の体と頭をもったこの人を、この連中の愚にもつかぬ好奇心に悩まされるようにはしたくなかったのです。けれども、副隊長が一度、どうしてああいう妙な乗りもので氷の上をこんなに遠く来たのか、と尋ねました。
その人はたちまち、深い深い陰欝さに閉ざされた顔つきになって答えました、「僕から逃げて行ったものを探しにですよ。」
「その、あなたの追いかけた人は、あなたと同じような格好で旅行しているのですか。」
「そうです。」
「とすると、
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