た。
けれども、朝になって明るくなるとすぐ僕は甲板に出、船員たちがみな船の片側に集まって、海上にいる誰かとしきりに話しているらしいのを眼にしました。なんとそれは、僕らが前に見たような大橇で、夜のうらに氷の大きな塊に乗ったまま、こっちのほうへ流されてきたものと見えます。犬が一頭生き残っていたほかには、その塩のなかに人間が居り、その人に、船へ上って来いと船員たちがすすめているところでした。その人は、他の旅行者のようにどこか未発見の島に住む未開な住民かともおもいましたが、そうではなくてヨーロッパ人でした。僕が甲板に現われると、船長が言いました、「わしらの隊長がここにいらっしゃるんだ。あんたをこの広い海の上で見殺しにしたりはなさらないよ。」
僕を認めると、その見知らぬ人は、外国訛りの英語で僕に話しかけました、「お船に乗せていたただく前に、どこへおいでになるつもりか、それをお教えねがえませんでしょうか。」
破滅の淵に臨んでいる人から、そう問いかけられた時の僕の驚きは、御想像に任せます。その人にとっては、僕の船こそ、その人が陸上で得られるどんな貴重な富とも交換したくなる頼みの綱だったろうに、
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