みをまぎらすことを求めたのは、こういう発作的な情熱が起っているときであった。私の放浪は、シャムニの谿谷に向けられた。子どものころ、よく訪れた所だった。あの時から、六年過ぎ、私は[#「私は」に傍点]残骸となった、――しかし、この荒涼たる不滅の光景には、何ひとつ変りがないのだ。
 初めのうちは、馬に乗って行った。あとになってからは、もっと脚のしっかりしている、こういうでこぼこの道路でもなかなかけがをしない騾馬を借りた。天気はよかった。八月なかばで、私のあらゆる悲しみの始まったあのみじめな時から、つまり、ジュスチーヌが死んでから、もうかれこれ二箇月になるころであった。アルヴの谷間に深く深く入り込むにつれて、私の精神にのしかかっていた重みが、眼に見えて軽くなった。両側にさし懸っている巨大な山々や絶壁、――岩間に激する川の音、あたりの滝々の落下、それが全能の神の強大な力について語っていた。――そして私は、ここにものすごい姿を露わしている諸元素を創造し支配したものに比べて強大さの劣ったどんなものの前にも、怖れたり屈服したりはしないようになった。それでもなお、登って行くにつれて、谿谷はますます壮大な
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