驚くべき特徴を示した。松山の絶壁にさし懸っている城跡や、アルヴの急流や、木々のあいだからここかしこに見えている小屋が、風変りな美しい光景をなしていた。しかも、それは、別の人類の住む別の地球に属するように、その白い輝かしいピラミッドと円屋根が群山の上にそば立っている大アルプスのおかげで、よけいに荘厳に見えた。
ペリシエの橋を渡ると、河によってできた峡谷が眼の前にひらけてきたので、そこに覆いかぶさっているような山に、私は登りはじめた。まもなく私は、シャムニの谷に入りこんだ。この谷は今しがた通り過ぎて来たセルヴォの谷よりもすばらしくて壮大であったが、そのわりに美しくもないし、絵のようでもなかった。高い雪をかぶった山々が、ただちにこの谷の境目をなしていたが、もはや古城の跡も肥沃な畠も見られなかった。広大な氷河が道に迫り、落下する雪崩のとどろく音が聞え、それが落ちるに従って雪烟の立つのが見えた。モン・ブランが、至高にして壮麗なあのモン・ブランが、まわりの尖峯からぬきん出て、途方もなく大きなその円屋根が、この谿谷を見下ろしていた。
この旅のあいだは、長いこと失われていた疼くような歓びの感情が、
前へ
次へ
全393ページ中153ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング