まったくのところ、われわれ裁判官は、いくら決定的なものであろうと、状況証拠で罪を宣告したくはありませんからね。」
 これは、妙な、予期しなかった理解であった。それはどういう意味だろう。私はわれとわが眼に欺かれたのだろうか。私が怪しいとおもっている当のものを漏らしたとしても、世間がみなそうだと思いこんでいるように、私はほんとうに気が狂ったのだろうか。私が急いで家に戻ると、エリザベートがしきりにその結果を訊きたがった。
 私は答えた、「エリザベート、あなたが予期したかもしれないように決定したよ。裁判官がみな、一人の罪人がのがれるくらいなら、十人の罪のない者が悩むほうがいいと考えたわけだ。しかも、ジュスチーヌは自白したんだ。」
 これは、ジュスチーヌの無罪を固く信じていた、かわいそうなエリザベートに、恐ろしい打撃を与えた。「ああ! 私は、人間の善良さをどうして二度と信じるようになるでしょう。私が妹のように思ってかわいがっていたジュスチーヌ、あのジュスチーヌが、あんな無邪気な笑顔をしながら、どうしてうらぎったりすることができたのでしょう。あのやさしい眼は、ひどいことやわるがしこいことはできそう
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