もなかったのに、それなのに、あの人は人殺しをしたのね。」
 それからまもなく私たちは、あのきのどくな犠牲者がエリザベートに会いたがっている、ということを聞かされた。父は行かないほうがよいと考えたが、行く行かないは本人の判断と感情で決めるがよいと言った。エリザベートはそれに答えて、「ええ、あの人がたとい有罪だとしても、私、参りますわ。そして、ヴィクトル、あなたもいっしょに行ってくださるわね。ひとりでは行けませんもの。」ジュスチーヌを訪問するというこの考えは、私を苦しめたが、といって、ことわることはできなかった。
 私たちが陰欝な監房に入って行くと、ジュスチーヌがむこう端の藁の上に坐っているのが見えた。両手には手錠が掛けてあり、頭が膝にがっくりと垂れていた。ジュスチーヌは、私たちが入って行くのを見ると、起き上がり、三人だけになってから、エリザベートの足もとに身を投げ出して、さめざめと泣いた。エリザベートも泣いた。
「おお、ジュスチーヌ! どうしてあなたは、私の最後の慰めをなくしてしまったの? 私はあなたの潔白を信じていましたから、あのときだってずいぶんなさけない思いをしたけれど、今ほどみじ
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