だろうか。そいつが弟を殺したのではなかろうか。
私は、その夜を、野外でつめたく濡れたまま明かしたが、そのあいだの苦悩を、誰が言い表わせるだろう。私は、天候の悪いことなどは感じないで、禍や絶望の場面をしきりに想像した。自分そのものの吸血鬼、墓穴から放たれて親しい者を残らず殺すことを余儀なくされた自分そのものの霊に、親しく照らしてみて、私が人間のなかに追い放ったもの、そいつがもうやっているような恐怖の目的を逐げるための意志と力を与えてやったものを考えた。
夜が明けてから、私は町のほうへ足を向けた。門が開いたので、父の家へ私は急いだ。私の最初の考えは、殺害者を私が知っているということをうちあけて、すぐ追いかけるようにすることだった。しかし、自分の語る話のことを反省してそうするのをやめた。自分がつくって生命を与えたものが、真夜中に、人の近づけそうもない山の絶壁のあいだに見えた、という話なのだ。また、その創造が成ったちょうどそのときにかかった神経的熱病を思いかえしてみても、そうでなくてもまったくありうるはずもない話が、そのためのうわごとみたいなことにされてしまうにちがいない。誰かほかの人がそ
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