、ときどき発作的に、日の光も蔽う舐めつくすような暗さを帯びて戻ってくるのであったが、そういう最中には、私は、それこそまったくの孤独のなかに隠れ、終日ひとりで小さなボートに乗って、黙ってぼんやりと雲を眺めたり、波のさざめきに耳をかたむけたりした。けれども、新鮮な空気と輝かしい太陽が、かならず、と言っでもいいくらい、ある程度のおちつきを取り戻してくれたので、家に帰るとみんなは、待っていてくれた笑顔で機嫌よく迎えてくれた。
ある日、こういう漫歩から戻ってくると、父は私をそばに呼んで、つぎのように話しかけた、――
「おまえが以前の喜びを取り戻し、自分に帰っているらしいのを見て、わたしは嬉しいよ。けれども、おまえはまだ不しあわせで、わたしらのなかにいるのをまだ避けているね。わたしはしばらく、その原因についてあれこれと考えてみたが、昨日ひとつ考えが浮んだので、それが十分に根拠のあることだったら、聴いてもらいたいのだ。そういうことで遠慮することは、無用であるばかりでなく、わたしら皆のものに三重の不幸を招くことになるからね。」
この前置きを聞いて私はひどく慄えたが、父は話をつづけた、――「白状するが、わたしはいつも、おまえのエリザベートとの結婚を、この家庭を楽しくする絆であり、わたしの晩年の支えであると思って、将来を考えていた。おまえらは幼い時からたがいに仲よくし、いっしょに勉強し、気性や趣味の点でもまったく一致しているようだった。しかし、盲目的なのは人間の経験だから、わたしが自分の計画をいちばんよく手助けできると考えたことだって、それを叩き壊してしまうかもしれない。ひょっとしたら、おまえは、あの子を妹と考えていて、自分の妻にするというつもりはないのかもしれない。いや、おまえの好きなほかの女に出会っているのかもしれない。そして、エリザベートとは義理に縛られていると考え、どうもそうらしく見えるように、そんな気苦労でひどく参っているのかもれないね。」
「お父さん、御安心ください。僕は、あの従妹を心から深く愛しているのです。エリザベートのように、熱烈な敬慕や愛情を僕に起させる婦人には会ったことかありません。僕のこのさきの希望や予想は、まったく、僕らがいっしょになることの期待に結びついていますよ。」
「この問題に対するおまえの気もちを聞くと、ねえヴィクトル、絶えて味わったことのない喜び
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