を感じるよ。おまえがそんなふうに考えてくれれば、いくらこのごろの出来事がわたしらに暗い影を投げようと、わたしらはきっと幸福になれるだろう。しかし、わたしが追いはらいたいのは、おまえの心を掴んで離さないように見えるこの影なのだよ。だから、この結婚の式をさっそく挙げることに、おまえが賛成かどうか、聞かしてほしいね。わたしは運がわるかったし、最近の出来事がわたしの齢や老衰に似つかわしい毎日の平静さを奪ってしまった。おまえは若い、けれども何不自由のない財産があるのだから、早く結婚したところで、おまえの立てているかもしれない未来の名誉な、また有益なことの計画の邪魔にはなるまい、と考えるのだ。といって、わたしがおまえの幸福を指図したがっているとか、おまえのほうでのびのびになるのがわたしにたいへんな心配を起させる、などと考えてもらっては困る。わたしの言うことを率直に取って、お願いするからひとつ、自信と誠実さをもって答えてもらいたいのだ。」
私は黙って父の言うことに耳をかたむけ、しばらく答えることができずにいた。頭のなかですばやくさまざまなことを考えめぐらし、何か結論に達しようと努力した。ああ! 私にとって、エリザベートとさっそく結婚することは、怖ろしいことだったし、狼狽せずにいられないことだった。わたしはひとつの厳然たる約束に縛られていて、それをまだ果していなかったし、破る気もなかった。というよりは、もしも破ったならば、どんな数々の災難が私と私思いの家族に降りかかるかもしれなかった! こういう致命的な分銅を頸に懸け、地につくほど身を屈めたままで祝儀に臨むことができるだろうか。平和を期待する結婚の喜びを享ける前に、私は約束を果して、あの怪物を伴れといっしょに立ち去らせなければならなかった。
私はまた、イギリスへ行くか、それともその国の哲学者たちと久しいあいだ通信を交すかする必要があるのを思い出した。この哲学者たちの知識と発見は、私の現在の企てには欠くことのできないやくにたつものであったからだ。ただ、通信でもって自分の望んでいる知識を得ることは、手間がかかってしかも不十分だし、それにまた、父の家で、自分の愛する者たちといっしょに仲よく暮らしながら、一方で忌まわしい仕事に従うことを考えると、どうにもこうにもいやでたまらなかった。恐ろしい出来事がたくさん起るかもしれないし、そのうちの
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