。事実を問いつめられると、このきのどくな少女は、態度がひどくどぎまぎしていたために、かなり嫌疑を強めた、というのだ。
 これはおかしな話だったが、私の信念はゆるぎなかったので、しんけんになって言った、「みんなでまちがっているよ。僕には殺したやつがわかっているのだ。ジュスチーヌには、かわいそうにあの善良なジュスチーヌには、罪はないよ。」
 このとき父が入ってきた。父の顔には深く刻まれた不幸が見えたが、父は、私を元気で迎えるように努力し、哀悼の挨拶を交したあとで、私たちの災難以外の何か別の話をしようとしたが、エルネストはそれに乗らなかった、「そうだ、お父さん! ヴィクトルは、かわいそうなウィリアムを殺したやつを知っているのだって。」
「運の悪いことに、わたしらも知っているよ。わたしが高く買っていた者の、あんな背徳と忘恩を見るくらいなら、何も知らんでいるほうが、ほんとによかったよ。」
「お父さん、それは違っていますよ。ジュスチーヌに罪はないのです。」
「そうだとしたら、断して罪人として苦しんだりすることのないようにしたいもんだね。今日、裁判があるはずだが、無罪放免となるように、わたしは、わたしは、心から望んでいる。」
 父のことばで私はおちついた。私は心のなかで、ジュスチーヌが、いや実際のところどんな人間でも、この殺人事件では無罪だと固く信じた。だから、ジュスチーヌを有罪と決めるに足るほどの、強い状況証拠が持ら出されはしないかと心配はしなかった。私の話は公けに発言すべきものではなかった。胆を潰すようなあの怖ろしさも、民衆の眼には、狂気の沙汰としか映らないにきまっているのだ。自分の感覚でそれを確かめでもしないかぎり、私が世界に放ったような、僭越で無知な、何をしでかすかわからない、生きた記念碑が存在する、ということを信ずる者が、創造者である私を除いて、実際にあるだろうか。
 エリザベートがまもなく、私たちが話しているところへやって来た。最後に会った時から久しく経っているので、エリザベートは、子どものころの美しさにまさる愛らしさをそなえていた。以前と同じ天真爛漫さ、快活さがあるとこへ、もっと感受性と知性にみちた表情が加わっていた。エリザベートはこのうえもない愛情を湛えて私を歓迎した。「あなたが帰っていらしたので、希望がもてますわ。あなたはたぶん、あのかわいそうな罪もないジュスチ
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