目の下に分類せられた土地資本・人的資本・動産資本は生産のために結合せられる。
 一八四 土地の所有者を地主[#「地主」に傍点](〔proprie'taire foncier〕)と呼び、人的能力の所有者を労働者[#「労働者」に傍点](travailleur)と呼び、狭義の資本の所有者を資本家[#「資本家」に傍点](capitaliste)と呼ぶ。そして今、右の所有者とは全く異り、地主から土地を、労働者から人的能力を、資本家から資本を借入れ、これら三つの生産的用役を農業・工業または商業によって結合することを職分とする第四の人を企業者[#「企業者」に傍点](entrepreneur)と呼ぶ。もちろん実際においては、同じ人が右に定義した二つまたは三つの職能を兼ねることが出来る。否四つ全部さえも兼ねることが出来る。そしてこの結合が異るに従って、種々の企業の形態が生ずるのである。だがそれらの場合にも、彼は異る二つ、三つまたは四つの職能を果すのであることは明らかである。科学的観点からは、我々は、これらの職能を区別し、それによって企業者と資本家とを同一視したイギリスの経済学者の誤や、企業者を企業の指揮の労働をなす者と考えたフランスの学者らの誤を避けねばならない。
 一八五 企業者の職分がこのように考えられた結果として、二つの異る市場を考えねばならない。その一は用役の市場[#「用役の市場」に傍点]である。そこでは、地主、労働者、及び資本家が売手として、企業者が生産的用役すなわち地用・労働・利殖の買手として相会する。しかしまた、用役の市場には、生産的用役として地用・労働・利殖を買入れる企業者のほかに、消費的用役として地用・労働及び利殖を買入れる地主、労働者、資本家がある。これらの人々を、私は、時と処に応じて導き入れてくるであろうが、今しばらく企業者のみが生産的用役を購う場合を研究せねばならない。これらの生産的用役は、価値尺度財を仲介とする自由競争の機構によって交換せられる(第四二節)。人々は各用役に対し、価値尺度財で表わした価格を叫ぶ。もしこの叫ばれた価格において、有効需要が有効供給より大であれば、企業者はせり上げ、価格は騰貴する。もし有効供給が有効需要より大であれば、地主、労働者、資本家はせり下げ、価格は下落する。各用役の市場価格は、有効需要と有効供給とを相等しからしめる価格である。
 このように掛引によって定まる地用の価値尺度財で表わした市場価格は地代[#「地代」に傍点](fermage)と呼ばれる。
 価値尺度財で表わした労働の市場価格は賃銀[#「賃銀」に傍点](salaire)と呼ばれる。
 価値尺度財で表わした利殖の市場価格は利子[#「利子」に傍点](〔inte're^t〕)と呼ばれる。
 生産的用役とそれらの市場と、この市場における有効需要と有効供給と、そしてこの需要と供給との結果としていかにして市場価格が現われるかの機構とは、資本と収入と企業者の定義とによって明らかになった。後に、イギリス・フランスの経済学者が地代、賃銀、利子すなわち生産的用役の価格を決定しようと努力しながら、これらの用役の市場を考えなかったために、不成功に終ったことを述べるであろう。
 一八六 市場の他の一つは生産物の市場[#「生産物の市場」に傍点]である。ここでは、企業者が生産物の売手として、地主・労働者・資本家は生産物の買手として現われる。これらの生産物もまた価値尺度財を仲介として、自由競争の機構に従って交換せられる。人々はこれらの生産物の各々に対し、価値尺度財で表わされた価格を叫ぶ。この叫ばれた価格において、有効需要が有効供給より大であるならば、地主・労働者・資本家はせり上げ、価格は騰貴する。もし有効供給が有効需要より大であるならば、企業者はせり下げて、価格は下落する。各生産物の市場価格は、有効需要と有効供給とが相等しくなるような価格である。
 かくて、他の一方に、生産物の市場と、需要と、供給と市場価格とがいかにして成立するかが明らかになった。
 一八七 これらの概念は、容易に認め得られるであろうように、事実と観察と経験とに、正確に一致する。実に貨幣の仲介によって行われる用役の売買市場と生産物の売買市場とは、経済学上においてと同じく、事実においてもまた、全く異るものである。それらの市場の各々において、売買はせり上げとせり下げの機構によって行われる。靴を買おうとして靴屋に入れば、生産物を与えて貨幣を受領する者は、企業者である。この活動は生産物の市場において行われる。生産物の需要が供給より多ければ、他の消費者は価格をせり上げる。供給が需要より多ければ、他の生産者がせり下げる。また一人の労働者は、一足の靴の手間賃の価格を定める。企業者は生産的用役を受け、貨幣を与える
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