を捨象することが出来よう。更に消費目的物及び原料は、生産せられると同時に直ちに消費せられる(貯蔵をしないとすれば)ものと仮定して、第八及び第九項目を捨象することが出来よう。
 貨幣は交換に参加するものである。流通貨幣の一部が、貯蓄となって吸収せられるとき、この貯蔵貨幣の一部は、信用によって、流通界に出てくる。もし貯蓄という事実を捨象すれば、貯蓄の貨幣を捨象することが出来る。なおまた流通貨幣をも捨象し得るであろうことは、後に述べる。
 一八〇 要するに消費的用役は、第一、二、三項目の下に分類せられる土地資本、人的資本、動産資本によって再生産せられると直ちに消費せられ、消費的収入は、第四、五、六項目の下に分類せられる土地資本、人的資本、動産資本によって再生産せられると、直ちに消費せられる。収入は、定義により、その最初の用役を尽せばもはや存在しない。人々が収入に対してこの用役を要求すれば、収入は消滅する。専門語でいえば、それらは消費[#「消費」に傍点](consommer)せられる。パン、肉は食われ、葡萄酒は飲まれ、油、薪炭は燃焼せられ、肥料、種子は土地に投下せられ、金属、木材、繊維、布は加工せられ、燃料は使用せられる。しかしこれらの収入は、資本の作用の結果として再生産せられるのであって、全く消滅するのではない。資本は、定義により、人々が第一回の使用をしてもなお存在を続けるものである。人々がこれらの継続的使用をすれば、それに役立つことを続ける。専門語でいえば、資本は生産[#「生産」に傍点](produire)する。耕作地は耕作せられ、ある土地は生産設備を支え、労働者はこの設備の中に労働し、機械道具等を使用する。要するに、土地資本、人的資本、動産資本は、それぞれ地用、労働、利殖を提供し、農業・工業・商業はこれらの地用、労働、利殖を結合せしめて、消費せられた収入に代替すべき、新しい収入を得るのである。
 一八一 だがこれだけでは足りない。直ちに消費せられる消費目的物及び原料のほかに、長い間に消費せられる狭義の資本がある。家屋その他の建築物は毀損し、衣服、芸術品は消耗する。これらの資本は、使用により、あるいは速かにあるいは徐々に破壊せられる。また事故により偶然に消滅こともあり得る。故に土地資本、人的資本、動産資本は新しい収入を生産するだけでは足りない。消耗せられる動産資本及び事故により消失する動産資本の代りに、新動産資本を生産せねばならない。出来得れば、現在の動産資本より多い新動産資本を生産せねばならぬ。そしてこの観点から、私共は、経済的進歩の特色を今既に指摘しておくことが出来る。実際、ある時間の終りに、先になしたと同じく、再び経済的生産の働きを停止したと考え、かつこのとき、動産資本が以前より大であるならば、それは経済的発展の象徴である。かくて経済的発展の特色の一つは、動産資本の量の増加にある。次編ではもっぱら新資本の生産の研究をなすであろうから、私はこれを後の研究に譲り、今は新収入すなわち消費の目的物及び原料の生産の問題の研究をなすであろう。
 一八二 生産資本によっての消費的収入及び動産資本の生産は、互に結合して生産の働きをなす資本の作用によって行われる。土地資本が主に働く農業においても、生産物は単に地用を反映するのみならず、労働及び利殖をも反映している。また反対に、資本の働きが支配的な工業においても、労働及び利殖と共に、地用が生産物の構成の中に入ってくるのである。おそらくはいかなる例外もなく、生産のためには、労働者を支えるべき土地と、人的能力と、資本である道具がなければならぬ。故に土地と人と資本との結合協力は経済的生産の本質である。先に生産要素の分類に役立った資本と収入との区別が(第一七八節)、また生産の機構を示すに役立つであろう。
 一八三 収入は、第一回の用役を尽した後には存在しないという性質があることによって、売買せられるかまたは贈与せられることしか出来ない。それらは賃貸せられ得るものではない。少くとも自然の形においては、いかにしてパンや肉を賃貸することが出来よう。しかるに資本は一回の使用をなしてもなお残存するという性質があることによって、有償または無償で、賃貸することが出来る。人々は例えば家屋什器を賃貸することが出来る。そしてこの行為の存在の意義は何であろうか。それは、賃借人に用役の享受を得せしめることである。資本の賃貸とは資本の用役を譲渡することである[#「資本の賃貸とは資本の用役を譲渡することである」に傍点]。この定義は全く資本と収入との区別に基く基本的な定義であって、これなくしては生産理論と信用理論とは成立しない。資本の有償的賃貸は用役の売買であり、その無償的賃貸は用役の贈与である。この有償的賃貸によって第四、五、六項
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