lle du gouvernement le plus avantageux au genre humain, 1767, 1768)、著者デュポン・デュ・ヌムール(Dupont du Nemours)、ボードー僧正(〔L'Abbe' Baudeau〕)、ル・トローヌ(Le Trosne)である。チュルゴーはこの派の人ではない。フィジオクラットは、彼らの著作の書名で解《わか》るように、経済学の領域を制限せずむしろ拡張した。社会の自然的統治の理論は、経済学よりはむしろ社会科学に属する。故にフィジオクラシーという語をもって経済学を表わすのは、広汎に過ぎる定義であろう。
 三 アダム・スミスは、一七七六年に公にした国富論において、初めて経済学の材料を結合して統一体となすのに成功した。ところでスミスが経済学の定義を与えようとしているのは、「経済学の体系について」と題する第四編の序説の当初においてである。そこで彼が下している定義は次の如くである。「経済学、立法者または政治家の知識の一分枝として考えられる経済学は二つの異った目的をもっている。その一つは人民に豊富な収入すなわち豊富な生活を得せしめること、より適切な言葉でいえば、人民をして自ら豊富な収入すなわち豊富な生活を得ることの出来る地位に置くことにある。他の一つは国家または公共団体に公務に必要な収入を得せしめることにある。一言にいえば、経済学は人民と主権者とを富ますことを目的とする。」この定義は経済学の父と呼ばれる人によって下されたものではあり、かつまた彼の著作の当初に掲げられたものではなくて、自ら問題の内容を充分に知り得た後に、その中央部に取扱われたものであるから、我々の充分な研究に値する。それには考慮せられるべき二つの点が含まれていると思う。
 四 人民に豊富な収入を得せしめ、国家に充分な収入を得せしめること、それらはたしかにはなはだ重要な二つの目的である。そして経済学がこれらの目的を達せしめるとすれば、経済学は著しく我々の役に立つわけである。けれども私はいわゆる科学の目的がそこにあるとは思わない。実際本来の科学の特質は有益なまたは有害な結果に無関心に、純粋の真理を追求していく所にある。だから幾何学が二等辺三角形は二等角三角形であるとの命題を立言するとき、また天文学が遊星は太陽が中心をなしている楕円の軌道をめぐるとの命題を立言するとき、これら幾何学や天文学は本来の科学である。これら二つの真理の第一が他の幾何学上の真理と同じく建築の骨組に、石材の切り方に、家屋の建設に、貴い結果を齎《もた》らすことも可能である。またこれら二つの真理の第二が天文学上のすべての真理と共に、航海に大いに役立つことも可能である。しかし大工も石工も建築家も航海者も、また大工の理論家、石切の理論家、建築、航海の理論家さえも、学者ではなく、真の意味の科学者として科学を研究しているのでは無い。ところでスミスがいった二つの操作は、幾何学者天文学者がなすそれに類するものではなく、建築家航海家のそれに似ている。故にもし経済学がスミスのいった通りのもので、その他のものでないとすれば、それはたしかにはなはだ興味ある研究ではあるが、しかし本来の科学ではないであろう。我々は経済学はスミスがいったものとは別なものであると云わねばならない。人民に豊富な収入を得せしめようと思う前に、また国家に充分な収入を得せしめようと思う前に、経済学者は純粋に科学的な真理を追求し、把握するのである。物の価値は、需要せられる量が増加し、供給せられる量が減少するときに増大するといい、反対の二つの場合にはこの価値は減少するといい、利子率は進歩的社会においては低下するといい、地代に課せられる租税はすべて地主の負担に帰し、土地の生産物の価格を変化せしめないというとき、経済学は純粋の科学的研究をなしているのである。スミス自身もこのような純粋の科学的研究をしている。彼の弟子マルサスは「人口論」(一七九八年)において、リカルドは「経済学及び課税の原理」(一八一七年)において、より多く純粋科学的研究をなしている。故にスミスの定義は、本来の科学として考えられた経済学の目的を指示しなかったという意味において不完全である。まことに経済学が人民に豊富な収入を得せしめ、国家に充分な収入を得せしめることを目的とするというのは、幾何学が堅牢な家屋を建築することを目的とするといい、あるいは天文学は海上を安全に航海することを目的とするというに等しい。一言にいえばそれは科学を応用の方面から定義しようとするものである。
 五 スミスの定義についての右の考察は、科学の目的に関するものである。私はその性質についても同様に重大な考察をしておかねばならぬ。
 人民に豊富な収入を得せしめかつ国家に充分
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