ネ収入を得せしめることは、共に重要にして微妙な活動ではあるが、しかし全く異る性質の活動である。前者は農業工業商業を一定の状態に置こうとすることから成立つ。これらの状態が有利なものであるかまたは不利であるかに従い、農業・商業・工業の生産はあるいは豊富となり、あるいは減少する。だから既に知られているように、職人組合、同業組合、親方の制度、厳重な干渉制限の制度、公定価格制度等の下においては、産業は悩み続け、空しく時を過した。今日では労働の自由と交換の自由の制度の下に産業は繁栄している。条件は前の場合には有利であり、後の場合には不利である。だが二つの場合ともに不利となりまたは有利となったものは、個人の利益のみである。冒されたものまたは尊重せられたものは正義ではない。国家に充分な収入を得せしめようとする場合は、これと異る。そこには国家の収入を構成するに必要なものを、個人の収入から徴収する活動がある。これは、よい条件で行われることもあれば、悪い条件でなされることもある。そしてこれらの条件がよいかまたは悪いかによって、国家の収入が充分となりまたは不充分となるのみでなく、また個人が公正に取扱われるかまたは不公正に取扱われるかの結果が生じてくる。すなわち各人の負担が公正になされるか、または不公正のためにある者が犠牲に供せられ、他の者が特権を得ているかの結果が起る。このようにして、社会のある階級が租税の負担を免れ、それがある他の階級にのみ課せられたことがあった。それが明白な不正義であることは、今日認められている所である。要するに人民に豊富な収入を得せしめることは有益な仕事をなすことであり、国家に充分な収入を供給することは公正の仕事をなすことである。利用と公正、利益と正義とははなはだしく異る種類の観点である。従ってスミスは例えば経済学の目的はまず第一に社会的収入を豊富ならしめる生産条件を示すにあり、次に作られた生産物を個人と国家との間に分配する条件を示すにあるといって、この区別を明らかにしたらよかったと思う。この定義の方がよりよいであろう。だがこれをもってしてもなお、経済学の真に科学的な部分は依然として明らかにせられていない。
六 歴史的順序からはスミスの後に来るジ・ベ・セイ(Jean−Baptiste Say)は経済学上最も有名な名の一つであるが、彼はスミスの定義について次の如くいう。「経済学は、富が形成せられ、分配せられ、消費せられる道行を知らしめるものだ、と私は言いたい。」彼の著書[#「著書」は底本では「著者」]は一八〇三年に第一版を出し、第二版は執政政府の検閲に基き発売を禁止せられ、第一帝国の転落後にしか公にせられなかったが、それは「経済学概論、または富が形成せられ、分配せられ、消費せられる方法の簡単な解説」(〔Traite' d'e'conomie politique, ou simple exposition de la manie`re dont se forment, se distribuent et se consomment les richesses〕)と題せられている。この定義とこの書物が採った分け方とは、経済学者が一般に承認し、追随しているものである。それはたしかに、人々がクラシックと考えようとしている定義であり、分け方である。だが私は、これに従い得ないと主張するのを許してもらわねばならぬ。そしてその理由は、この定義と分け方とを成功せしめたその点にまさしくあるのである。
七 一見して明らかであるように、セイの定義はスミスのそれと異るのみでなく、ある意味においてはそれと正反対である。スミスを信ずる限り全経済学は科学であるよりはむしろ技術であり(第四節)、セイに従えばそれは自然科学である。セイによれば、富は全く自然的ではないにしても、少くとも人間の意志とは独立の態様で形成せられ、分配せられ、消費せられるのであり、全経済学はこの態様の単純なる解説であるようである。
セイがこの定義のうちで経済学に与えた自然科学的色彩は、経済学者を魅《ひ》きつけた。実際に経済学者は、社会主義者との闘争において、この考え方の助けを借りたことが大である。経済学者は労働組織改造のすべてのプラン、所有権制度の改造のすべてのプランを先験的に排斥した。換言すれば何らの議論をなすことなく、すなわち経済的利益に反するものとしてでもなく、また社会的正義に反するものとしてでもなく、ただ人為的結合を自然的結合に代えるものとして排斥した。セイはこの自然主義的な見方をフィジオクラットに借り、かつフィジオクラットが工業及び商業生産に関し自らの学説を要約した方式「自由放任」(Laissez faire, laissez passer)によって動かされた。プルードンは自由主義
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