ニがあるが、そのときにはこれらの物も社会的富の一部を成すことが出来る。
二二 これによって、稀少[#「稀少」に傍点](rare)と稀少性[#「稀少性」に傍点](〔rarete'〕)という語がここでいかなる意味のものであるかが解るであろう。この意味は、力学における速度、物理学における熱という語の意味の如く科学的である。数学者や物理学者にとっては速度は緩徐《かんじょ》に対立するものではなく、熱は寒さに対立するものではない。緩徐は数学者にとってはより少い速度に過ぎないし、寒さは物理学者にとってより少い熱に過ぎない。科学上の用語では、物体は動き始めれば速度をもち、何らかの温度をもち始めれば熱をもつ。それと同じように、稀少性と豊富とは互に矛盾しない。いかに豊富に存在する物であっても、その物に利用があり、量において限られているなら、経済学上では稀少である。このことは、ある物体がある時間中にある空間を通過すれば、この物は力学上では速度をもつといわれるのと全く異る所がない。しからばあたかも、通過せられた空間のこれを通過するに要した時間に対する比、または一単位時間にのうちに通過せられた空間が速度といわれるように、稀少性とは、利用の量に対する比、または一単位の量のうちに含まれる利用をいうのであろうか。しばらく私はこの点に対する断定を下すのを差控え、後に再びこの論究に立ち帰るであろう。ところで利用のある物はその量の制限せられている事実によって稀少となるのであるが、この結果として三つの事情が生れる。
二三 (1)量において限られかつ利用のある物は、専有せられる。無用の物は、専有せられない。何らの用途にも役立たない物は、何人もこれを専有しようと思わない。また利用のある物であっても無限の量のあるものは専有せられない。まずこのような物は、無理に押し付けることも出来ねばまた差押えることも出来ない。人々はこれらの物を共有の状態から取り去ってしまうとしたところで、無限の量があるから、出来るものではない。大部分を各自の処分の下に置き得るのならとにかく、わずか一部分を所有し貯えておいて、何になるか。何かにこれを利用しようとするのか。だが、何人も常にこれを獲得出来るのに、誰がこれを需要するのか。それとも自らこれを使用するためなのであるか。だが常にいつでもこれを獲得出来ることが確実であるとしたら、これを貯蔵
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