フ区別を定義によって定め、第一の範疇の事実の全体を産業(industrie)と呼び、第二の範疇の事実の総体を道徳現象(moeurs)と呼ぶ。産業の理論は応用科学または政策と呼ばれ、道徳現象の理論は精神科学または道徳学と呼ばれる。
 従って一つの事実が産業の範疇に属するには、またこの事実の理論が何らかの政策を構成するには、この事実が人間の意志の働きにその起源を有し、かつ物の目的を人格の目的に従属せしめるという観点から人格と物との関係を構成していなければならぬし、またこれだけで足るのである。読者は私が先に引用した政策の例を再び採ってみるなら、それらのいずれにもこの性質があることが解るであろう。例えば既に述べた建築は家の建築要素として木材及び石材を、造船は船舶建造の要素として木材及び鉄を、航海は綱具の製造、帆の据え附けまたは操縦の材料として大麻を用いる。海洋は船舶を支え、風は帆を膨脹せしめ、空と星とは航海者に航路を指示する。
 一つの事実が道徳現象の範疇に属するには、そしてこの事実の理論が道徳学の一部門であるためには、この事実が常に人間の意志の働きにその起源を発し、人格の使命の相互の調整という点から見ての人格と人格との関係を成していなければならぬし、またそれだけで足りる。例えば結婚または家族等に関し、夫と妻、親と子の職分と地位を定めるものは道徳である。
 二〇 科学、政策、道徳とはこのようなものである。それらのそれぞれの規準は真、利用または利益、善または正義である。さて社会的富及びそれに関係のある事実の完全な研究のうちに、この種の知的研究の一つまたは二つが材料となるものがあろうか、あるいはそれらの三つとも含まれるであろうか。これは、私が富の概念を分析しつつ次章において明らかにしようとする問題である。
[#改ページ]

    第三章 社会的富について。稀少性から生ずる三つの結果。
        交換価値の事実と純粋経済学について

[#ここから8字下げ]
要目 二一 社会的富は稀少な物、すなわち(一)利用があり、量において限りがある物の総体である。二二 稀少性は科学的用語である。二三、二四、二五 稀少な物のみが、またすべての稀少な物は(一)占有せられ(二)価値を有し交換し得られ(三)産業により生産し得られ増加し得られる。二六 経済学、交換価値の理論、産業の理論、所有権の
前へ 次へ
全286ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
手塚 寿郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング