ゥら見て最もよく組織化された市場は、売買が例えば仲買人・才取等のような売買を集中する仲介者によって行われる市場である。従ってこのような市場では、いかなる交換も、その条件が公にせられることなくしては行われず、売手が互により安く売ろうとし、買手が互により高く買おうとすることなくしては、行われない。株式取引所・商品取引所・穀類取引所・魚市場等は、実にこのような働き方をする市場である。しかしこれらの市場のほかに、多少は制限せられていても競争がともかくも相応にかつ満足な程度に行われる市場がある。蔬菜《そさい》市場、家禽市場などがこれである。小売商店・パン屋・肉屋・乾物屋・服屋・靴屋等の並列した街は、競争の点から見ると充分に組織化されていない市場ではあるが、それにしても、そこではかなりの程度まで競争が行われる。医師・弁護士の仕事の価値、音楽家の興行の価値の決定を支配するものもまた競争であることは争い得ない。更にまた全世界は、社会的富の売買が行われる一つの広大な一般的市場で、それを個々の特種な市場が形成しているのである。これらの市場においてこれらの売買はいかにして自ら成立していくか。その法則を知ることが我々の問題である。この目的をもって常に私は、競争の点から見て完全な組織をもっている市場を仮定する。これは、純粋力学において摩擦のない機械を仮定するのと同様である。
 四二 ところでよく組織せられた市場において競争がいかに働くかを見ようと思うのであるが、その目的のために、パリまたはロンドンのような資本の大市場における証券取引所に入ってみよう。これらの場所で人々が売買している物は、社会の富のうちで、証券によって表わされている重要な富の一部分である。例えば国家その他の公共団体に対する債権の一部分・鉄道・運河・重工業工場等の一部分である。我々がこの市場に入るとき、聞き得るものは、取りとめのない喧騒のみであり、見得るものは、無秩序の運動のみである。しかし一度私共がその内容に通暁するに至るならば、この喧騒とこの活動との意味が極めて明瞭になってくる。
 今例えばパリの取引所において行われる三分利付フランス国債の取引を、他の取引から引離して観察してみる。
 三分利付公債は六〇フランであるという。これを六〇フランまたはそれ以下に売ってよいとの指図を受けた仲買人は、三分利付の公債のある量すなわちフラン
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