がつて来ました。
かはいさうにガスパールは、ないしようでフランス語を読み習ふのに、苦労をしてゐるので、ドイツ語は一つもおぼえるひまがありませんでした。ガスパールはドイツ語の一つの動詞の変化を口に言はされるのに、数時間もつッ立ちつくしてゐました。ガスパールの、しわめた眉の中には、習はうとする注意よりも、剛情と怒りとがひそんでゐるのが、だれにも感づけました。授業時間ごとに、同じ場面がくりかへされました。
「ガスパール・ヘナン、立て。」と先生が言ひます。
ガスパールは、ふくれッつらをして立ち上ると、つくゑによりかゝり、からだを左右にふるだけで、何にも答へずにすわるのでした。クロック先生はいきなりなぐりつけたり、あとで、食べものをやらなかつたりしました。しかし、そんなにされてもガスパールはちつとも、ものをおぼえませんでした。
晩になつて、尾根うらの小さな部屋へのぼつていくときに、私はよく、ガスパールに言ひました。
「泣くの、およしよ。ぼく見たいにやるんだよ。ドイツ語をよむのをおぼえなくちやだめだよ。だつてあいつらは、とてもつよいんだもの。」
でもガスパールは、いつもかういひました。
「ぼくはいやだ。いきたいんだ。うちへかへりたいんだ。」
ガスパールのこの考へは、しよせん、動かしやうがありませんでした。
最初のころの、ものうさが、ガスパールの上に一そう、つよくもどつて来ました。夜あけがたに、ガスパールが寝床の上にすわつて、目を見すゑてゐるのを見ますと、私には、ガスパールが、今じぶん、もう目をさましてゐる水車場や、小さいときに、はいつてかきまはした、きれいな小川のことを考へてゐるのが感じられました。さういふものが、遠くからガスパールを引つぱるのです。その上に、先生がひどいことをするので、それがます/\ガスパールを家の方へおしやるのでした。ガスパールは、すつかり、荒くれて来ました。
とき/″\、ガスパールが杖でたゝかれたあと、その二つの目が、怒りで一ぱいになるのを見ますと、私は、じぶんがクロック先生だつたら、その目つきがおそろしいだらうと思ひました。でも先生はちつともおそれませんでした。杖でなぐりつけたつぎには断食をさせました。しまひには牢屋を発明しました。ガスパールはその中におしこめられたきり、ほとんど外へは出されませんでした。
三
或日曜のことで
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