う》は、
「これでいゝ、もう狸も出ないし下らない迷信もなくなつた。」といつて喜びました。しかし村の人達は、馬鹿《ばか》七がどうなつたのだらうかと思つて、心配しながら焼跡をすつかり調べて見ましたが、人間らしい者の屍骸《しがい》は何所《どこ》にも見つかりませんでした。
「あんな馬鹿な男は、どうなつたつていゝぢやないか。」と智慧蔵は言ひました。しかし村人は、馬鹿七のために心配してゐました。
ところが其《その》翌年《よくねん》から、此《この》村に雨が一滴も降らなくなりました。もう川も谷も、水が涸《か》れてしまつて、飲む水にも困るやうになりました。田や畑の作物はすつかり萎《しな》びて、枯れてしまひました。で、多勢はお宮の境内で、太鼓を打《たた》いて歌ひながら、雨乞踊《あまごひをどり》をいたしました。智慧蔵は馬鹿な踊をする奴《やつ》らだと言ひながら、その雨乞踊を見に行きました。
三百人も四百人も集つて、声を嗄《か》らして歌ひながら、雨乞踊を踊つてゐますと、そこへ向ふの方から、青い物を荷《にな》つた男が、一人やつて来ました。よく/\見ると、それは馬鹿七でありました。
「馬鹿七さん、あなたは焼け死
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