でゐました。
この馬鹿七は平生《へいぜい》から、狸山へ行つて一度その狸の腹鼓を聞いて見たいものだ、狸の踊る様子を見てやりたいものだと言つてゐましたが、或《あ》る日の夕暮に、たうとう思ひ切つてたゞ一人その森の中へ入つて行きました。
馬鹿七は腰に山刀をさして、手には竹の杖《つゑ》を一本提げてゐました。そして段々、山を奥へ奥へと登つて行つて、大きな暗い/\森の中へ入つてしまひました。
「何と大きな樟の樹《き》だなア、何と大きな樫の樹だなア。」と呆《あき》れながら、馬鹿七は真暗《まつくら》い森の中で木の根に腰をかけて、腹鼓の鳴るのを、今か/\と待つてゐました。けれども一時間待つても、二時間待つても、ちつとも狸は出て来ませんでした。で、馬鹿七はたうとう待草臥《まちくたび》れて、ウト/\と其所へ寝てしまひました。
暫《しばら》くして、ふと、眼《め》を覚して見ると、これはまア何といふ不思議なことでせう。馬鹿七の前には、可愛い/\小い狸の仔《こ》が、百疋も二百疋も、きちんと座つてゐました。しかもそれが皆《みん》なお行儀よく並んで、馬鹿七の方を一生懸命に見詰めてゐるじやアありませんか。馬鹿七は吃驚
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