《びつくり》しましたから、腰の山刀をスラリと引抜いて、振廻しました。すると、その可愛い狸の仔の姿は掻消《かきけ》すやうに消えてしまひました。そして、森はまた元の真闇《まつくら》になりました。
 すると、馬鹿七は又、ぐう/\と鼾《いびき》をかいて、寝てしまひました。暫《しばら》くして眼を覚して見ますと、今度は大きな親狸が、まん円い膨《ふく》れたお腹《なか》を、ずらりと並べて、百も二百も並んでゐるのです。そして皆《みん》な、小い棒切れを両手に持つて、今にもその太鼓を打ち出さうとしてゐるじやありませんか。それを見た馬鹿七は、躍り上つて、
「しめたぞ! 狸さん、早くその太鼓を打《たた》いて、聞かせてお呉《く》れ!」と云つて、ニコニコ笑ひながら、竹の杖に縋《すが》つて伸び上つて見ますと、森の中一面に、大きな古狸が、何百何千となく座つてゐるのです。
「大変な狸だなア、今度は山刀を抜いて脅かしはしない。さア一つその腹鼓を打《たた》いて呉れ!」といつて、また木の根に腰を掛けると、古狸が一斉にポンポコ/\と腹鼓を打《たた》き始めました。すると最前|何所《どこ》かへ逃げた小い可愛い仔狸が、何所からかヒヨコ
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