馬鹿七
沖野岩三郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紀州《きしう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百|穴《あな》と
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ポンポコ/\/\と
−−
一
紀州《きしう》の山奥に、狸山《たぬきやま》といふ高い山がありました。其所《そこ》には、大きな樫《かし》だの、樟《くす》だのが生え繁《しげ》つてゐる、昼でも薄暗い、気味の悪い森がありました。森の中には百|穴《あな》といふのがありました。其《そ》の穴の中から、お腹《なか》の膨れた古狸が、夕方になると、百|疋《ぴき》も二百疋も、ノソノソと這《は》ひ出して来て、ポンポコ/\/\と腹鼓を打つて踊つたり跳ねたりするといふので、村の人達《ひとたち》は皆な気味悪く思つて、昼でもその森の中へ入つて行くものはありませんでした。
この村に、七|郎兵衛《らうべゑ》といふ五十あまりの男がありました。七郎兵衛は少し馬鹿《ばか》な男でしたから、村の人達は、馬鹿《ばか》七、馬鹿七と呼んでゐました。七郎兵衛自身も、馬鹿七といはれて平気
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