を淵の中へ差出したので、親猿はすぐそれに取縋つて難なく岸に這上《はひあが》りました。けれどももう其時親猿は余程弱つて居たと見え、大きな岩の上にパタリと倒れたまゝ動きませんでした。子猿達は親の生命を助けたのを喜ぶやうに、また親の身の上を気遣ふやうにそのぐるりを取捲いてゐました。
この有様を見た与兵衛は一生懸命に川原を下の方へ駈けて行きました。そして家《うち》へ走り帰つて信次と追駈《おつかけ》ゴツコをして遊んで居たチヨン[#「チヨン」に傍点]を抱きあげて、
「さア、チヨン[#「チヨン」に傍点]、お前をお父さんに返してやるぞ!」と言つて其《その》まゝまた川原を上《かみ》へ上へと走つて行きました。
行つて見ると川向ふの岩の上には、まだ子猿が親猿を取捲《とりま》いて日向ボツコをして遊んで居ました。
与兵衛は淵の上手の浅瀬を渡つて向岸に行つて、チヨン[#「チヨン」に傍点]を川原に座らせて、
「さア、チヨン[#「チヨン」に傍点]よ、彼所《あすこ》にお前のお父さんが居る! お前は――もう、お父さんの所へお出《い》で! さア早くあつちへお出で!」と言ひ聞せました。
けれどもチヨン[#「チヨン」に
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