《おさ》へ殺したんだな。今に敵《かたき》を討《うつ》てやるぞ!」と、叫びながら、鋭い牙《きば》を剥き出しました。
熊と猪は、かみ合ひました。そして、日の暮れまでもお互に争つてゐました。
五
京内《きやうない》が里の茶店でお菓子を買つて貰《もら》つて、佐次兵衛《さじべゑ》に伴れられて山小屋へ帰つて来たのは、其《そ》の翌日でありました。
「さ、もう駄々《だだ》をこねるんぢやアないよ、お前のお蔭《かげ》で昨日今日は二人とも遊んで了《しま》つた。」と云《い》ひながら、佐次兵衛は京内をつれて谷川へ水を汲《く》みに行つて見ると、これはまあ何といふ事です。大きな猪《ゐのしし》と大きな熊《くま》が、二|疋共《ひきとも》引掻《ひつか》かれて、噛切《かみき》られて、大怪我《おほけが》をして死んで居るぢやありませんか。しかも二疋とも大きな石を腹の下に抑へて、頭を並べて死んで居るのです。能《よ》く/\見ると、石の下から小い黒い獣《けだもの》の足が二寸ばかり外へ出てゐました。
佐次兵衛が猪と熊とを引除《ひきの》けて石を引起した時、京内は可愛い可愛い熊の子が、赤い舌を出して死んでゐるのを見まして
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