に行かう。」
佐次兵衛は京内の手を取つて、引張つて行かうとしました。
「嫌《や》だ、やだ! お父さんは一人で行け。俺は里へ遊びに行く!」と言つて京内はドン/\と、山路《やまみち》を麓《ふもと》の方へ駈《か》けて行きました。
「おい、こりや、それは親不幸といふものだぞ!」
「不孝でもコーコーでも宜いや、里へ行つて遊ぶんだ。」
京内は一生懸命に駈け出したので、佐次兵衛も捨てゝ置けず、お弁当を背負つたまゝ、パタ/\と其の後を追かけました。
二
山の上には、大きな熊《くま》が木の枝に臥床《ねどこ》を作つて、其所《そこ》で可愛い可愛い黒ちやん=人間なら赤ちやん=を育てゝ居ました。
「さ、オツパイ! オツパイお食《あが》り、賢いね黒ちやん。」
熊のおツ母《か》さんは黒ちやんの頭を舐《な》めてやりました。
「オツパイ嫌《いや》よ。もつと/\旨《おい》しいもの頂戴《ちやうだい》な。」
「オツパイが一番|旨《おい》しいのよ、ね、駄々《だだ》を捏《こ》ねないで、さ、お食《あが》り……」
「嫌だつて云ふのに、オツパイなんか飲ませたら、おツ母さんの乳頸《ちくび》を噛《か》み切つてやるぞ。」
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