熊と猪
沖野岩三郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紀州《きしう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一番|旨《おい》しいのよ
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ドン/\と
−−
一
紀州《きしう》の山奥に、佐次兵衛《さじべゑ》といふ炭焼がありました。五十の時、妻《かみ》さんに死なれたので、たつた一人子の京内《きやうない》を伴《つ》れて、山の奥の奥に行つて、毎日々々木を伐《き》つて、それを炭に焼いてゐました。或日《あるひ》の事京内は此《こ》んな事を言ひ出したのです。
「お父さん、俺《おれ》アもう此《こ》んな山奥に居るのは嫌《いや》だ。今日から里へ帰る。」
「そんな馬鹿《ばか》を言ふものぢやあ無い。お前が里へ出て行つたなら、俺は一人ぼつちになるぢやないか。」と言つて佐次兵衛は京内を叱《しか》りました。
「お父さんは一人でも宜《い》いや、大人だもの。俺ア子供だから、里へ行つて皆《みん》なと鬼ごつこをして遊びたい。」
「そんな気儘《きまま》を言ふものぢや無い。さ、私《わし》と一緒に木を伐り
次へ
全9ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング